民主主義とその周辺

研究者による民主主義についてのエッセー

平成の正体

お知らせ このブログをもとにした新書ができました。『平成の正体ーーなぜこの社会は機能不全に陥ったのか』(イースト新書)という本です。2018年8月10日発売です。 「ポスト工業化」、「ネオリベラリズム」、「格差社会」、「ポスト冷戦」、「55年体制の崩壊…

右派二大政党制はなぜまずいのか?――安倍政権の圧勝と今後の野党再編について考える――

与党の圧勝から考える政党の問題 今回の衆議院総選挙での与党の圧勝の原因が民進党の分裂にあることは間違いない。現行の小選挙区制の下で安倍政権への批判票が分散したことが、与党に有利に働いたというわけだ。そこで、手始めに考えてみたいのはこうした野…

21世紀の自由からの逃走?――共謀罪の法制化を目前にして考える、この国の民主主義に起きていること――

陳腐な光景と滑りやすい坂 森友学園問題に対する官僚の不誠実な対応や、共謀罪の法制化をめぐる担当大臣のいい加減な国会答弁をはじめ、驕り高ぶる政治家や官僚たちの言動が甚だしい。民主主義の悲劇か喜劇かは別にして、こうした言動は日本の政治の見慣れた…

ポピュリズムを嗤ってはいけない――ポピュリズム化する時代の民主主義の希望について考える――  

上から目線の嘲笑は有効ではない トランプ政権が正式に誕生してまだ間もないが、大統領就任以前の楽観はすっかり消え去ったようだ。トランプの選挙期間中の言動はパフォーマンスに過ぎず、就任後には有能なビジネスマンとして現実的で合理的な政策を遂行する…

トランプ・ショックと壁に覆われる世界――トランプ大統領の誕生と今後の民主主義の行方――

トランプの勝利はアメリカの民主主義の敗北を意味するのか? 大方の予想を裏切るトランプの衝撃的な勝利は、文字どおり、世界を震撼させることになった。選挙から一週間たった今も、このトランプ・ショックはアメリカの内外を問わず、様々な反応を引き起こし…

ポピュリズムだけがそんなに悪いのか?――ポピュリズム化する民主主義の時代のリスクとエートス――

世界を席巻するポピュリズム 昨今の政治の動向を理解するための鍵の一つはポピュリズムにある。こういっても、異論はおそらくないであろう。トランプやサンダースが主役になったアメリカの大統領選挙もしかり。今後、ヨーロッパ政治の台風の目となるかもしれ…

最大の争点は3分の2――第24回参議院選挙後の最悪のシナリオから考える――

地味で退屈な選挙? 参議院選挙の投票日まで、残すところわずかである。今回の選挙は、選挙権が18歳に引き下げられて初めての国政選挙ということで話題となってはいるものの、それ以外の点では、さほど有権者の関心を惹きつけているわけではないようだ。投票…

国民投票はもうやめた方がよいのだろうか?――イギリスのEU離脱問題から考える民主主義のリスク――

イギリスのEU離脱とレファレンダム EUからの離脱か残留かをめぐるイギリスのレファレンダム(国民投票)の結果、僅差で離脱派が残留派に勝利を収め、イギリスはEUから離脱することになった。今回のイギリスのEU離脱問題で世界中が固唾を飲んでその結果を見守っ…

日本会議の草の根民主主義と憲法改正 ――参議院選挙に向けて考えておきたい、いくつかの事柄(2)――

安倍内閣と日本会議 『日本会議の研究』がこのところ話題になっているようだ。これは、現在の安倍内閣と親密な関係にある、日本会議という民間の保守系団体の出自とその歴史を追ったルポだ。そこで詳らかにされているのは、日本会議の実働組織である日本青年…

「パナマ文書」、そして新自由主義という夢の果て――参議院選挙に向けて考えておきたい、いくつかの事柄――

地震と緊急事態条項 熊本・大分を震源とする大規模な地震は深い爪痕を残したまま、未だ予断を許さない状態が続いている。被災者やその関係者のみならず、今回の震災がもたらした苦しみの光景を様々なメディアをとおして目撃した人びとの中には、そうした苦境…

民主主義がテロに屈しないためにこそ、寛容が必要である――11月14日のパリにおけるテロ事件の衝撃について――

11月14日、イスラム過激派組織によるパリでのテロは、文字どおり世界を震撼させることになった。もちろん、その衝撃はその犠牲者の数やパリを標的にした周到な計画に起因するだろうが、それだけではない。このテロが起こるべくして起きた事件であったこと、…

安全保障関連法が成立した夜に、日本の民主主義に起こったこと――冷たい怪物が再び蘇った日――

集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が9月19日の未明に成立してから、もう一週間が過ぎようとしている。それを受けて胸をなでおろしている人もいれば、憤り落胆している人もいるだろう。あるいは、たかだか一つの法律にいったい何を大騒ぎしていた…

いま、デモを擁護しなければならない、いくつかの理由について

この期に及んでも頻発するデモ 現在、参議院では、9月中の安全保障関連法案の成立に向けて、審議が進んでいる。衆議院ですでに可決された本法案は参議院での賛成多数で成立するので、与党議員が過半数を占める以上、採決にこぎつきさえすれば、この法案は正…

なぜ、自民党若手議員の発言を見過ごすことができないのか――極端化する時代の代表制民主主義――

自民党内で一連の動向 安全保障関連法案の今国会での成立や、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題、TPPの締結など多くの難題を抱えた安倍政権は、このところ、その身内によって足を引っ張られているようだ。もちろん、念頭にあるのは、6月25日の「文…

民主主義が民主主義に敗北した日――安全保障関連法案の衆議院通過の意味について考える――

7月16日以後の日本社会 先日の安全保障関連法案の衆議院での可決は、第二次世界大戦後、民主国家として出発した日本を大きく転換させることになった。2015年7月16日を挟んで、それ以前の日本とそれ以後の日本は、まったく異質な社会となったのだ。なぜなら、…

「国家の存続か、憲法か」という問いかけが意味すること――安全保障関連法案の第3の局面における争点を理解するために――

安全保障関連法案の第3の局面 安全保障関連法案の国会での審議は難航しているようだ。最近の世論調査を見る限り、この法案に対する国民の理解は深まっているとはいえず、その反応は、慎重なままのようだ。安倍政権は、今後、世論の軟化を図ることになるので…

安全保障関連法案の前に再び現れた民主主義の亡霊

憲法審査会の参考人質疑が明確化にした安全保障関連法案の問題の焦点 先日行われた、衆議院憲法審査会の参考人質疑が話題を集めているようだ。与党の推薦した憲法学の専門家を含めた出席者全員が、現在国会で審議されている安全保障関連法案が現行憲法に違反…

民主主義はそんなに「すばらしい政治体制」なのか?――大阪都構想をめぐる住民投票から考える直接民主制の問題――

民主主義はすばらしい? 一昨日、多くの注目を集めた大阪都構想をめぐる住民投票が行われ、即日、開票結果が明らかになった。すでに報道にあるとおり、大阪市民は約1万票の差で、橋下大阪市長が提案した大阪都構想の受け入れを拒否することになった。 大阪市…

代表制民主主義は生き残ることができるのか?――2015年統一地方選挙から再考する代表制と民主主義の関係――

先日の憲法記念日には、現行の日本国憲法に対して、改憲派と護憲派双方による活発な発言が相次いだ。そのうち最も注目すべきは憲法改正の中心的勢力である自民党の動きである。自民党の船田元・憲法改正推進本部長によれば、自民党はまず「緊急事態条項」を…

テロ、例外状況、民主主義――イスラム国による日本人人質事件が提起する、民主主義における暴力の問題――

最悪の結果 いわゆるイスラム国(ISISあるいはISIL)による、日本人二名の人質事件は、日本社会に大きな衝撃をもたらしている。報道によれば、そのうちの一人はすでに殺害され、もう一人のジャーナリストも、昨日、その命をテロリストの手によって奪わることに…

シャルリ―・エブド社銃撃事件と、自由(liberté)、平等(égalité)、博愛(fraternité)――“Je suis Charlie”への違和感から考える民主主義の危機――

“Je suis Charlie”への違和感 イスラム原理主義者による、フランスの出版社シャルリ―・エブド銃撃事件の戦慄が冷めやらぬ先の日曜日(1月11日)、このテロリズムに抗議するデモがフランス全土で行われた。報道によれば、その数は、370万人にも及び、デモ大国フ…

奇妙な選挙と民主主義の蹉跌(後編)――選挙だけが「民意」を表明する機会ではない――

予期された結果 第47回衆議院の総選挙は、52%という戦後最低の投票率の下で、総議席数の3分の2以上を獲得した自民党・公明党の連立政権の圧勝という結果に終わった。この結果は、今回の選挙への有権者の関心の低さを含め、事前の予想通りであり、何らの驚き…

奇妙な選挙と民主主義の蹉跌(前編)――安倍首相による衆議院解散総選挙と有権者の困惑――

第47回衆議院総選挙はなぜ行われるのか? 12月14日の衆議院総選挙まであと一週間をきった。街頭での演説をはじめ各地で選挙活動が行われ、テレビなどのメディアでも、今回の選挙に関する報道を頻繁に目にするようになった。これらは、選挙期間中に良くある光…

民主主義の祝祭としての選挙――沖縄県知事選挙の意味――

今日、安倍首相によって衆議院が解散され、衆議院の総選挙が来月に行われることになった。これは問題のある選挙となるだろう。問題があるというのは、なにも、何百億円という無駄な税金が使われるからだけではない。どう考えても、今回の衆議院の解散総選挙…

民主的な社会とその敵――香港の民主化デモから考える、民主主義と不平等の問題――

香港のデモの光景とその目撃者としての私たち アンブレラ・レボルーションと呼ばれる、香港での民主化デモから1ヶ月以上が過ぎた。市民による金融街の占拠と行政当局によるその暴力的な排除によって世界の注目を集めたこの抗議行動は、中国政府が決定した香…

民主主義の成熟とその危機の再来――スコットランド独立をめぐる住民投票の結果を手掛かりに考える民主主義のアイロニー――

最善の結果? スコットランドの独立をめぐる住民投票は、独立反対派の勝利で終わった。これを受けて、イギリス国内だけでなく国外でもこの結果を肯定的に評する向きが圧倒的に多いようだ。なぜなら、この結果によって、独立派が勝利した場合の、イギリス国内…

多数決投票ですべてが解決するわけではない(2)――スコットランドの独立問題から考える、社会の分断を乗り越えるために民主主義に必要なこと――

世論調査から見る現状 前回の投稿で取り上げたスコットランドの独立問題は、一段と多くの注目を集めているようだ。というのは、AFPによれば(http://www.afpbb.com/articles/-/3025218)、最新の世論調査で、はじめて、独立賛成派が反対派を上回ったからだ。つ…

多数決投票ですべてが解決するわけではない(1)――スコットランドの独立問題から考える、社会の分断を乗り越えるために民主主義に必要なこと――

間近に迫った住民投票 今月の18日に、スコットランドでは、独立の是非をめぐる住民投票が実施される。現在のスコットランドは、イギリス、すなわち、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成しているが、1707年以前は、独立した王国であった。イ…

民主主義を蝕む安倍政治――憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使の解禁に反対せねばならないもう一つの理由――

集団的自衛権の行使を解禁した閣議決定とその後 7月1日の閣議決定で集団的自衛権に関する憲法解釈の変更が行われた。そして、すでに3週間近くが過ぎた。先日まで衆議院予算員会ではこの閣議決定に関する集中審議が行われていたが、それを見る限り、政府がこ…

集団的自衛権の解釈改憲はなぜ問題か?(2)――立憲主義から国民主権へ――

どうやら、解釈改憲による集団的自衛権行使の解禁は、もはや時間の問題でしかないような状況のようだ。大方の予想通り、公明党は連立を離脱するほどの覚悟もなく、結局、自民党の集団的自衛権行使の解禁案に対して多少の制約を課す程度で、妥協することにな…