民主主義とその周辺

研究者による民主主義についてのエッセー

平成の正体

 お知らせ

 このブログをもとにした新書ができました。『平成の正体ーーなぜこの社会は機能不全に陥ったのか』(イースト新書)という本です。2018年8月10日発売です。

〈平成〉の正体 なぜこの社会は機能不全に陥ったのか (イースト新書)

 「ポスト工業化」、「ネオリベラリズム」、「格差社会」、「ポスト冷戦」、「55年体制の崩壊」、「日常の政治」という6つキーワードを手掛かりに平成を一つの時代として振り返りました。そこで中心となるテーマは、やはり民主主義です。平成をとおして日本の民主主義はどうなってしまったのか批判的に検討しました。また、巻末には、『日本の軍歌』や『大本営発表』(ともに幻冬舎新書)など数多くの著作で知られる、近現代史研究家の辻田真佐憲氏との対談も収録されています。平成の時代の政治と文化に焦点を当てた内容です。

 ご興味のある方は、ぜひ一読ください。

 

『平成の正体』の内容――本書の一部抜粋――

 本書では、平成の歴史を陰鬱にさせるものとして六つの背景を選んで論じた。 すなわち、ポスト工業化への対応の遅れに伴う社会システムの機能不全、ネオリベ化 による生活の安全の破壊、格差による社会の分断、対米依存一辺倒の安全保障政策、一連の政治改革の帰結としての政府の暴走、反民主的な価値を公然と掲げる保守・右派団体の勢力の拡大に焦点を当てたわけだ。その上で、これらの背景が平成の民主主義にどのような影響を及ぼすことになったのか検討した。民主主義こそ、平成の時代から先送りされた社会問題を次の時代に解決する際の枠組みだからだ。これゆえ、その現状をどうしても見ておく必要があったのだ。

 ネオリベラリズムイデオロギーである自己責任論が、社会問題を個人の問題とする矮小化 をとおして、その集合的解決を目指す民主主義の障壁となったこと。また、格差に よって分断化され敵対し合う社会は、異なる人びと間での利益や意見の一致を見出そうとする民主主義ならではの試みをきわめて難しくさせたこと。 さらに、緊張をはらむ国際情勢において、政府を中心に日本の安全保障に対する脅威をことさら煽り立てて、民主的な社会の基盤である自由の制約もやむなしとする空気を作り出したこと。そればかりか、決められる政治を追求するあまり、政府に対して過度に権力を集中させ、その結果、民主的な統制を弱め、実際に執行権力が国民主権を侵害しつつあることなどを苦境にある民主主義の現状として指摘した。

 こう見ると、平成史のどこに今後の希望を見出せばよいというのだろうか。確か に、本書では、希望の所在についてほとんど触れることはできなかった。そのためには、別の機会が必要だろう。ただ、それでも本書が何かしら役に立つとするなら、おそらく、ポスト平成にむけて、どこに希望はないか、何に希望を託してはならないかを前もって検討する際だろう。社会のネオリベ化をいっそう進めることに、自己責任論を振りかざすことに、治安・国防における過度の不安を煽り立てることに、あるいは、内閣の権限強化の飽くなき追求に、ポスト平成の希望があるのだろうか。当然ながら、それらに希望はない。むしろ、散在する私たちの社会の諸問題を私たちの手で解決するための資源を減少させ、そのための制度を傷めることになるだけだろう。