民主主義とその周辺

研究者による民主主義についてのエッセー

2014-01-01から1年間の記事一覧

奇妙な選挙と民主主義の蹉跌(後編)――選挙だけが「民意」を表明する機会ではない――

予期された結果 第47回衆議院の総選挙は、52%という戦後最低の投票率の下で、総議席数の3分の2以上を獲得した自民党・公明党の連立政権の圧勝という結果に終わった。この結果は、今回の選挙への有権者の関心の低さを含め、事前の予想通りであり、何らの驚き…

奇妙な選挙と民主主義の蹉跌(前編)――安倍首相による衆議院解散総選挙と有権者の困惑――

第47回衆議院総選挙はなぜ行われるのか? 12月14日の衆議院総選挙まであと一週間をきった。街頭での演説をはじめ各地で選挙活動が行われ、テレビなどのメディアでも、今回の選挙に関する報道を頻繁に目にするようになった。これらは、選挙期間中に良くある光…

民主主義の祝祭としての選挙――沖縄県知事選挙の意味――

今日、安倍首相によって衆議院が解散され、衆議院の総選挙が来月に行われることになった。これは問題のある選挙となるだろう。問題があるというのは、なにも、何百億円という無駄な税金が使われるからだけではない。どう考えても、今回の衆議院の解散総選挙…

民主的な社会とその敵――香港の民主化デモから考える、民主主義と不平等の問題――

香港のデモの光景とその目撃者としての私たち アンブレラ・レボルーションと呼ばれる、香港での民主化デモから1ヶ月以上が過ぎた。市民による金融街の占拠と行政当局によるその暴力的な排除によって世界の注目を集めたこの抗議行動は、中国政府が決定した香…

民主主義の成熟とその危機の再来――スコットランド独立をめぐる住民投票の結果を手掛かりに考える民主主義のアイロニー――

最善の結果? スコットランドの独立をめぐる住民投票は、独立反対派の勝利で終わった。これを受けて、イギリス国内だけでなく国外でもこの結果を肯定的に評する向きが圧倒的に多いようだ。なぜなら、この結果によって、独立派が勝利した場合の、イギリス国内…

多数決投票ですべてが解決するわけではない(2)――スコットランドの独立問題から考える、社会の分断を乗り越えるために民主主義に必要なこと――

世論調査から見る現状 前回の投稿で取り上げたスコットランドの独立問題は、一段と多くの注目を集めているようだ。というのは、AFPによれば(http://www.afpbb.com/articles/-/3025218)、最新の世論調査で、はじめて、独立賛成派が反対派を上回ったからだ。つ…

多数決投票ですべてが解決するわけではない(1)――スコットランドの独立問題から考える、社会の分断を乗り越えるために民主主義に必要なこと――

間近に迫った住民投票 今月の18日に、スコットランドでは、独立の是非をめぐる住民投票が実施される。現在のスコットランドは、イギリス、すなわち、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成しているが、1707年以前は、独立した王国であった。イ…

民主主義を蝕む安倍政治――憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使の解禁に反対せねばならないもう一つの理由――

集団的自衛権の行使を解禁した閣議決定とその後 7月1日の閣議決定で集団的自衛権に関する憲法解釈の変更が行われた。そして、すでに3週間近くが過ぎた。先日まで衆議院予算員会ではこの閣議決定に関する集中審議が行われていたが、それを見る限り、政府がこ…

集団的自衛権の解釈改憲はなぜ問題か?(2)――立憲主義から国民主権へ――

どうやら、解釈改憲による集団的自衛権行使の解禁は、もはや時間の問題でしかないような状況のようだ。大方の予想通り、公明党は連立を離脱するほどの覚悟もなく、結局、自民党の集団的自衛権行使の解禁案に対して多少の制約を課す程度で、妥協することにな…

集団的自衛権の解釈改憲はなぜ問題か?(1)――安倍政治とボナパルティズム――

先月末、日本と北朝鮮の政府間の協議で、拉致問題の進展が見られた。北朝鮮が日本人拉致被害者の再調査を実施し、その見返りに、日本は独自の制裁措置を解除するという内容だ。この突然の出来事と、国内政治の主要な争点となっている集団的自衛権の問題との…

サイレント・プアともう一つの民主主義(2) サイレント・プアを解決するために必要なもう一つの取り組み

先の投稿「サイレント・プアともう一つの民主主義(1)」では、サイレント・プアの問題を現在の日本の社会のあり方から理解する必要性を論じた。このあり方を大きな影響を及ぼしているのが、グローバリゼイションの圧力の下で弛まず進められている新自由主義的…

サイレント・プアともう一つの民主主義(1) サイレント・プアとは何か?

サイレント・プアが提起する民主主義の問題 NHKの「サイレント・プア」というドラマがなかなか面白いという噂を耳にしたので、これまでに放映された第1話から第3話を観てみた。弟の死の責任を背負い苦悩している若き女性が、社会福祉協議会のコミュニティ・…

マイルドヤンキーと民主主義――孤独なコミュニティの不安――

《マイルドヤンキーという新保守層》 近頃、マイルドヤンキーという言葉をよく目にする。この言葉は、マイルド、すなわち、尖った部分がそぎ落とされてやさしくなったヤンキーを意味するらしい。ヤンキーといえば、反社会的な行動を取り、ときに恐喝や万引き…

大阪市長選挙と民主主義の隘路――代表制民主主義における選挙の形骸化――

《選挙結果の評価》 2014年3月23日の出直し大阪市長選は、事前の予想通り、低い投票率(23.59%)と橋下氏の圧倒的な得票(87.5%)による再選で終わった。この結果で注目された点は、極端に低い投票率だけでなく、13.53%という異常な数の無効票(6万7506票、その…

「ネット右翼と民主主義」(2) ――「Japanese Only」から民主主義への怨念へ――

「Japanese Only」、ありていに訳せば、「日本人以外、お断り」。この言葉が書き込まれた横断幕が、Jリーグ第2節浦和レッズ対鳥栖戦の際、浦和サポーターが入場するゲートに掲げられた。この事件は、大きな話題となっている。その横断幕における「日本人以外…

「ネット右翼と民主主義」(1) ――ネット右翼と「反知性主義」――

おそらく、ネット右翼、あるいはネトウヨという言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。それは、在日朝鮮人を主要な標的として極端な排外主義的ナショナリズムを主張する極右集団である。ネット右翼という言葉から分かるように、その特徴は、ネットと中心と…

「2014年都知事選から日本の民主主義のこれからについて考える」(2)ーー反復の中から出現しつつある民主主義の新たな徴候ーー

今回の都知事選の結果が示していることは何であったのか。それは、これまで何度も目にした事態が今回もただ反復されたに過ぎない、ということである。そしてこの反復がなぜ生じるのか。それは、代表制民主主義が正常に機能しているためである。これらのこと…

「2014年都知事選から日本の民主主義のこれからについて考える」(1)ーー民主主義における反復とその切断についてーー

今回の都知事選は、400万票も獲得した前知事の就任1年程での辞職に始まり、総理経験者の出馬やネトウヨと呼ばれる極右勢力に支持された候補者の登場など話題には尽きなかった。しかし、結局、予想された通りの結果で幕を閉じた。この結果については、予想さ…